近年小児においてもワキ、腕、下肢のレーザー脱毛のニースが高まっており、
その安全性、小児への適応の是非等について
議論される機会が多くなりました。
私も会員であります「日本医学脱毛学会」においても
毎回話題となっております。
起こりうるやけど、毛のう炎等の合併症の問題など様々な視点から
現在では脱毛治療は医療行為でありエステで行うべきではないという見解です。
医療機関で行ったほうがよい理由としては、
他にも重大な理由があります。
小児のレーザー脱毛は医療機関で行えば安心なのか。
あることをきっかけに、
意外にもレーザー脱毛に携わる医師でも
このことについて知識がない可能性があるのでは??・・・と
心配に思った事がありますので
お話したいと思います。
その前にまず、
そもそも小児でのレーザー脱毛を行う理由としては
ただ単純におしゃれ脱毛としての場合と、
他の子どもに比べて毛が濃く、いじめられた、いじめられそうなど
この二つに分かれます。
後者の、他の子よりも体毛が濃い原因について。
体質?遺伝?
それもありますが、それだけではありません。
体毛には2種類あります。
アンドロゲン(男性ホルモン)の影響をほとんどうけない「非性毛」と、
影響を強く受ける「性毛」です。
非性毛には
眉毛、まつ毛、四肢・腰背部のうぶ毛
性毛には2種類あり
男女共通してみられる(両性性毛):低濃度または弱いアンドロゲンによる
腋毛(ワキ毛)、女性の陰毛、男性の陰毛の下半分
男性に見られる(男子性毛):高濃度のアンドロゲンによる
口ヒゲ、アゴヒゲ、男性の陰毛の上半分、四肢・腰背部の硬毛、前頭・頭頂部の頭髪(頭部は大量のアンドロゲンで逆にうぶ毛に変化する)
したがって
硬毛である性毛が顔、口回り、四肢とくに上腕・大腿部に
増加する現象は男性型多毛の特徴であり
(いわゆる多毛症では軟毛が性毛の生える以外の場所で増加し、
前腕や下腿などで目立ち異なります。アンドロゲン過剰は関与しません)、
アンドロゲンが高濃度になったことによる可能性があります。
その原因は
小児ではきわめて稀には、性腺腫瘍の存在も忘れてはなりませんが、
① 思春期前、思春期における生理的な範囲での
アンドロゲンの増加による一時的な多毛
これは更年期にアンドロゲンが減少すると毛が薄くなるように
一過性であり、ホルモンバランスが整うと正常に戻ることも多いです。
② 思春期におけるインスリン抵抗性が生理的な範疇を超えた場合の男性化
(インスリンの増加は遊離活性型性ステロイドを増加させます)
②について
思春期には誰しもインスリン抵抗性は25~50%増大します。
これば二次性徴の発来に重要な役割を果たしています。
インスリンの増加は、遊離(活性型)性ステロイドを増加させ、
思春期の発来機序に関係していると考えられています。
それが過度になりますと排卵障害や男性化が起こります。
過度になる原因として重大であるのが
思春期PCOS(思春期多嚢胞性卵巣症候群)です。
今や日本では、生殖年齢女性の5~8%にPCOSが
認められるといわれます*1。
その原因は単一ではなく、視床下部ー下垂体、卵巣、副腎皮質機能異常、
食生活(糖質過多など)インスリン抵抗性、生活習慣、ストレス等が相互に作用すると考えられています。
思春期では特にストレスが副腎皮質ステロイドホルモン(ACTH)を増加させたり、
さまざまなホルモン機能の感受性を増加させ、
発症しやすくなるようです。
日本人女性のPCOSの症状は
92.1%で月経異常を認め、不妊症の原因の10%以上をしめるといわれています。
その他
23.2%で多毛やざ瘡(ニキビ)等の男性化徴候(ニキビの診療においても重要なチェック項目です)
20.0%で肥満徴候です。
思春期PCOSは後の健康、妊娠に影響するため見逃してはならない。
思春期PCOSは、成人期を通じて症状が持続する内分泌疾患
であり、
放置すると
肥満、2型糖尿病、メタボリック症候群、心血管疾患、不妊、
子宮内膜過形成、子宮体癌、睡眠時無呼吸、うつ病などが合併するリスクが高まります。
よって思春期前の多毛をみた場合に
生理的なものか、思春期PCOSであるのかを見極めなければなりません。
● 家族歴:母から娘に引き継がれる傾向があるため母のPCOSの既往の有無を聴く
● 月経異常:15歳を過ぎても初潮が見られない場合のみならず、
無排卵による不正出血(月経周期の長短等乱れ、初潮以来2年以上の稀発月経の持続にも注意)
● 男性型多毛:初潮前2年から15歳までに出現。
硬毛である性毛が顔、口回り、四肢とくに上腕・大腿部に
増加する現象は男性型多毛の特徴
● 治療抵抗性のざ瘡(ニキビ)
● 変声(低音声)
このような症状を伴う思春期前・思春期の多毛は
精査が必要です。
思春期PCOSと診断された場合には、
まずは体重減少、耐糖能異常・脂質異常の是正です。
食事の改善と運動が大切です。
残念ながら、生活習慣の肥満の改善では多毛の改善は難しいといわれています。
低用量ピルの使用
月経異常、ざ瘡そして多毛も改善することが多いです。
その他さまざまな治療がありますが、
PCOSと診断された若年女性の多くでは、
多毛や肥満によって自己肯定感が低下しているとの報告もあり*2
早期に多毛を改善する手段として医療レーザー脱毛を行うことは有用です。
他の子より毛か濃いことが原因がないかどうかを
診断したうえで医療レーザー脱毛を受けることが必要です。
そういう点でも
小児の脱毛治療は、エステではなく
医療機関で行うべきといえます。
*1.佐藤幸保ら.多嚢胞性卵巣症候群(PCOS).日本産婦人科學會雑誌.2012.64(2).355.
*2.山本千尋ら.多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断された若年女性の思い.母性衛生.2018.59(2).355-364
*3.横谷進ら.多毛.小児科診療.60(増刊号).231-233
*4.大場隆.耐糖能異常と思春期医学.糖尿病と妊娠.201515(1).46-49
*5.矢内原巧.女性とアンドロゲン.HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY 8(2)139-146
*6.稲毛康司.多嚢胞性卵巣症候群ー前思春期から思春期にかけての多嚢胞性卵巣症候群を中心に.小児内科2017.49(2)264-268