八丁堀 皮膚科|スキンソリューションクリニック Rotating Header Image

蓄熱式レーザー(従来の方法とは異なる)による小児の脱毛治療 推奨派と反対派(心配派) なぜ私が反対派(心配派)なのか

小児のレーザー脱毛のニーズが高まり、
多毛に悩む女児のQOLが改善され、喜ばれている一方で
それにまつわるさまざまな問題も明らかとなり、
小児のレーザー脱毛の意義、そして安全性について議論がなされています。

2月に行われる日本医学脱毛学会では、
当院の外科担当の林原医師が会頭を務め、
「安心、安全な医療脱毛をめざして」をテーマとし開催されます。

私も以前に投稿した小児の多毛症について>>>
講演依頼をうけましたので、お話してまいります。

小児のレーザー脱毛を行うにあたり、多毛の原因を鑑別したうえで行うことの重要性について講演いたしますが、
小児のレーザー脱毛については、それ以外にも心配していることがあります。

最近のこの学会での一番の話題は、小児へのレーザー脱毛の安全性についての議論です。

*そもそも小児にレーザー脱毛は必要か(生理的一過性の多毛との区別をしているか?)
*小児へのレーザー脱毛は本当に安全なのか(とくに蓄熱式レーザー)

私がこの学会に参加するようになったのは、ここ数年のことですが、
上記について「学術的な」議論をされている場面を見たことがありません・・・。

「今のところ問題ない」という報告ばかり・・・
でも本当のところの安全性の評価にはまったくなっていないと私は感じています。
その「問題」としている点がずれているのです・・・。

今回の学会に参加するにあたり、これまで触れられなかった
以下の点について「小児への蓄熱式レーザー脱毛推奨派」
の先生方にご意見をいただこうと考えています。

何が「問題」になるのではないかと心配しているのか

まずは脱毛治療に使用する機器には大きくわけて3つほどあります。

エステで使用可能なIPL(光)脱毛。
レーザーよりも弱い光で治療をするため、完全に毛の組織を破壊することが難しく、治療回数がかかったり、永久的な効果(永久脱毛)に至らない場合も多い。

そして従来のレーザー脱毛。
毛の根本の毛乳頭をターゲットとし破壊して
永久脱毛にします。

そして蓄熱式脱毛。
毛を再生する幹細胞の存在するバルジ領域(毛隆起)
主に破壊することで永久脱毛にします。

したがって
皮膚の浅いところで蓄熱させて治療をする蓄熱式のレーザー脱毛は痛みが少ないとされています。

このことから
「小児のレーザー脱毛に蓄熱式レーザーを使用」するようなったのです。

 

「小児に蓄熱式レーザーを使用して脱毛」!!

と聞いて
「痛くないしいいかもね」
という医者と

「え??!大丈夫なの?」
と心配する医者と

分かれるのは
再生医療や最先端の医学情報に明るいか、
そうでないかだと私は思います。

2012年に京都大の山中伸弥教授がiPS細胞の発見による
ノーベル医学・生理学賞を受賞したことで
再生医療への臨床応用の期待を世界中で高めることになったと思います。
このウイルス等による遺伝子導入を用いた幹細胞(iPS細胞)の他
胚幹細胞(ES細胞)、成体組織幹細胞(骨髄幹細胞、神経幹細胞、毛包幹細胞など成体に分布して組織の再生に恒常的に働いている)等があります。
ES細胞は、あらゆる細胞に分化することができ、長期増え続けることのできる
最も再生能力の高い幹細胞です。しかし、一個体に本来成育することが可能な胚細胞を使用するということで、倫理的な問題から再生医療に使用していくのは
難しいのが現状です。
よってこの倫理的な問題のないiPS細胞や、患者本人から採取可能な成体組織幹細胞を用いた再生医療の臨床応用が期待せれ、研究が進められています。
ただし、ipS細胞においては、ウイルスによる遺伝子導入を用いるため
遺伝子異常による腫瘍化やウイルスの感染の危険性が心配されます。
成体組織幹細胞は、患者本人から採取でき、適合もよいのですが
その幹細胞により多分化能が限られるため、再生できる組織に限りがあります。

成体組織幹細胞による
皮膚、骨・軟骨、歯周組織、角膜、血管・心臓、肝臓、すい臓、神経、食道など、多くの臓器を対象とした再生医療の臨床応用に向けた検討が進められいます。

成体組織幹細胞の中でも、最も採取の容易な皮膚における
幹細胞を使用した再生医療について注目されており、
その報告も相次いでいます。

そう、それこそが、毛に存在する
「毛包幹細胞」なのです。

私の母校北里大学皮膚科の同期の医師である
天羽康之教授の研究チームは、この毛包幹細胞による再生医療の臨床応用にむけて研究を行っております。

以前より、この毛包幹細胞は、毛隆起(バルジ領域)に分布しており、
毛包を再生する能力について知られていました。

この毛再生する毛包幹細胞を破壊して
永久脱毛にする蓄熱式脱毛はこの原理を利用しています。
日本においてもこの蓄熱式レーザー脱毛に人気が高まってきた
ちょうどそのころ
方や再生医療の分野では
2015年頃より毛包幹細胞は、毛のみの再生に携わっているのではなく
「多分化能がある!」事が発見されました。
すなわち毛包幹細胞は、毛を再生するばかりでなく
神経や筋(平滑筋細胞)、ケラチノサイト(皮膚を形成する細胞)の
再生にも働いていることが分かったわけです。

この時点で、それについて知る医師の間では、蓄熱式脱毛の安全性について
疑問を持ち始めたのです。

このように、毛だけでなく、
神経や筋肉、皮膚の再生、すなわちそれらが損傷した時に
修復するのを助けている毛包幹細胞をレーザーで破壊してしまったら、
それらの修復はどうなるのか・・・。

ましてや細胞増殖の盛んな成長期の小児に
この組織の再生に重要な幹細胞を破壊してしまって
将来何か問題がおきないのか?
という心配なのです。

私たち皮膚科医や形成外科医は
この毛包幹細胞が皮膚の損傷の再生に役立っていることは
実は遠い昔から臨床の場で感じていました。
やけどをして皮膚を損傷した際に、
毛根が残っていると皮膚は毛の周囲から再生し、
皮膚で覆われ治っていくこと。
また逆に毛根が残っていないと皮膚が再生されず、
皮膚移植が必要になってくること。
毛が残っていると皮膚が再生されるのです。

よって
この大切な、皮膚、神経、筋肉等を再生する
毛包幹細胞を、広範囲において破壊してしまうことについて
心配でならないのです。

これまで特に問題がなかったとの報告も聞きますが
その「問題」というのは
脱毛部位にみため問題がないという程度の調査であり、
全身において細胞修復機能に影響は起きていないという報告ではありません。
また皮膚組織においてその毛包幹細胞の毛以外の再生能力は失っていないという安心する報告もない・・・。

よって小児への「蓄熱式レーザー脱毛」の使用については
私は現時点においてはまだ「反対派(心配派)」です。

今後より正確な安全確認がなされ、
蓄熱式レーザー脱毛における毛包幹細胞破壊による
影響に問題がないことが十分確認されるまでは、
小児はもちろんのこと、成人においても使用を控えたいと考えています。

 

*林 慧一郎、天羽康之.毛包幹細胞の幹細胞マーカー発現量と多分化能の検討.北里医学2015;45:113-116
*天羽康之.皮膚(毛包)幹細胞を用いた神経再生.日本抗加齢医学会雑誌10(4)538-542
*Amoh Y et al:implanted hair follicle stem cells for Schwann cells which support repair of severed peripheral nerves,Proc Natl Acad Sci USA 102:17734-17738.2005
*Amoh Y et al:Multipotent hair follicle stem cells promote repair of spinal cord injury and recovery of walking function.Cell Cycle 7:1865-1869.2008
*Amoh Y et al:Human hair follicle pluripotent stem(hfPS)cells promote regeneration of peripheral-nerve injury:An alternative to ES and iPS cells.J Cell Biochem 107:1016-1020.2009
*Amoh Y et al:Multipotent nestin-expressing stem cells capable of forming neurons are located in the upper.middle.and lower part of the vibrissa hair follicle.Cell Cycle 11:3513-3517.2012
*Mii S,Amoh Y et al:Comparison of nestin-expressing multipotent stem cells in the tongue fungiform papilla and vibrissa hair follicle .J Cell Biochem 115:1070-1076.2014

 

 

投稿日:2019年1月13日  カテゴリー:★ 院長ブログ・医療情報 ★, 美容・アンチエイジング, 小児皮膚科